
2022年一発目のレビューは1月発売の『ガラス姫と鏡の従者』。移植元が『キスシリーズ』の戯画だったのであまり期待していなかったが、それは間違いだった。
本作のポイントはズバリ、ヒロインのルート毎で完全にパラレルにならない舞台設定・世界観・時間軸。一般的な恋愛ADVでは個別ルートごとにキャラクターの役回りや結末が大きく変わりがち。しかし本作は、各ルートで...強く表に出ないながらも...キャラたちの固定の繋がりや行動を匂わす、ライターが作り出した「この世界」の土台がしっかりしている。ヒロインの攻略を1人で終わらせず、2人め、3人めとプレイしがいのある作品に仕上がっていた。
ストーリー
さる貴族の従者である祖父を持つ主人公、瀧田駿介(たきた-しゅんすけ)。幼い頃に祖父に連れられていったホームパーティ中、遊び心で木に登ったら、そこにはベランダで今にも泣きそうな顔をした女の子・ベルナデッドがいた。駿介は祖父譲りの紙飛行機で彼女を笑顔にさせた...その笑顔を守りたい―――
それを生きがいに入学した王立サンドリヨン学園。ここは将来の王侯貴族の方々が学ぶ王侯科と、そんな人達に仕えるための講義が行われる従士科に分かれている。しかし駿介は入学早々、王侯科に所属する貴族であるアンリ=フランシスと衝突してしまい、どこからも白い目で見られていた。従士科には王侯科の生徒にお仕えして単位を貰わないといけないのだがそれもできず、無為な日々を送る駿介。だがそんな彼を見捨てずおにぎりを差し入れてくれる同じ従士科の城釜奈緒美(しろかま-なおみ)、そして奈緒美の所属するクラブの主にして財閥のお嬢様である佐々良織姫(ささら-おりひめ)は突如自身の"城"に駿介を拉致する。
そして駿介はついに見つけた。あの日飛ばしたものと同じ紙飛行機と、そこに立っていた少女を―――
Overview
【違う世界で生まれて 同じ世界で生きていく】
選択肢はいくつかあれど、4人が集うとあるイベント内で選択したヒロインのルートに直行し、その後は一本道と近年の文体に沿った恋愛 ADV 。
だが、本作は一本道でありながら山場と谷の作り方、そして文量がほどよく、プレイが全く苦にならない。ほか、とあるキャラの秘密が共通ルート早々に明るみになり、駿介(=プレイヤー)のみがその事実を知った上でそれを独占できてしまう、なんともお得な作品でもある。
本ブログの推奨攻略順としては、【アンリ→ベル→織姫→奈緒美】と紹介しておきたい。奈緒美ルートは最後の持ってくると熱いので、おにぎり少女は最後のお楽しみにするのがよい。作中で何度か言及され、本作のタイトルにも近しい『従者は主人を映す鏡』という言葉がある。物語の最初は、従者である駿介は手鏡サイズの鏡だったのかもしれない。しかし、その鏡がどんどん大きくなり、姿見クラスになった鏡に映る自分自身...駿介を見ている自身の目に気付き恋をしていくさまは、強い説得力がある。でも、鏡だからこそか...鏡であってもか...「人の心」という見えない部分を恐れる織姫ルートは味わい深い。
パラレルじゃない恋愛ADV
本作のイチ押しポイントはずばりここ。冒頭にも少し書いたが、多くの恋愛ADVはあるヒロインのルートに入るとその子に話が集中しがちで、エンディングを迎えた時の世界や時間軸、関係性がまるで異なる場合が多い。しかし本作は、各ルート間である程度の繋がりを想像できるのが美味しいポイント。
物語の終わりはこのタイミング!ときっちり決まっているし、そこで何があるかの大筋まで提示され、話としてブラしようが無いくらい設定がしっかりしているのにも関わらず、ルートに入ったヒロインそれぞれとの結末を迎えることができる。
また、王家や皇族というのは何かと厄介事に巻き込まれがち。裏で何が行われているかが、次のヒロインへ進んでいくうちに「あ!ここで情報を得ていたのはあいつか!?」と繋がっていく、非常に珍しいタイプの作品。『EVE burst error』や『DESIRE』のような、最初からルートを繋げる目的で作られている作品には及ばないものの、誰がどんな動きをしているのか、探りを入れているのは誰か。それらが恋愛ADVでありながら少しずつ繋がっていく面白さが本作最大の特徴で、だからこそ一本道にも関わらず全ヒロインの攻略も苦にならなかったのではないかと振り返ることができる。
確かに、「恋仲にならない」といえばパラレルワールドなのは当たり前である。しかし、あたかも推理モノのような、裏側での繋がりを恋愛ADVの中で楽しんでみたいという方にはオススメできる一本だ。
CS版追加ルート:名言生産機かのちん
最近、エンターグラム社の移植は追加ルートが搭載されることが多くなってきました。『Sugar*Style』は全員ぶんを虚無読むことでしか開放されなかったが、本作では1人クリアで開放と、学んでくれたのか親切設計。かのちんというのは、駿介らの属する従士科の教師(クラス担任)で、同学園の卒業生でもあるちっこい生物である。
プレイヤー側も10年以上恋愛ADVをやっていると、学生主人公であっても学生ヒロインじゃなくて先生のほうに(年代的に)目が行くんですよね。自分も先生もいろんなものをくぐりぬけて大人になってきて、じゃあその先生は、未来を担う主人公くんに何を教えてくれるのか。そのあたりが気になる歳になってしまいました。折れた翼を広げたまま貴方の上に落ちてゆきたいところではありますが、かのちんは、その翼がどうなってしまっても...などなど本当に良いことを教えてくれます。追加ヒロイン、というよりは追加エピソード、程度なのでさっくり終わってしまいますが、R-18 から移植されて追加された課外授業は十分に受ける価値のあるものと思います。
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ということで、『ガラス姫と鏡の従者』のミニレビューでした。やっと新作を発売日に買えるところまで戻ってきました。今年は頑張りたいです。
次回は何もなければ、本日発売の『月の彼方で逢いましょう』になります。
あ、本年もどうぞよろしくお願いします!(2022年最初の投稿だった)(地味にブログ5年目だ)
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