アドベンチャーゲームの入江

アドベンチャーゲーム(ADV)を600本以上持つ筆者が、商業ゲームプランナーの視点からADVを紹介するブログ。ギャルゲーからミステリまでADVならなんでも。

【Switch/PS4 etc.】『春ゆきてレトロチカ』レビュー(ネタバレ無)。刑事ドラマって体感すると難しいよね~って感じ。

 

 『死の謎を解き、生きる答えをみつける。』をキャッチコピーに『”新本格”ミステリアドベンチャー』を謳う、全編実写ADV『春ゆきてレトロチカ』をレビュー。

 ”新本格”ミステリと銘打っているのは、事件の捜査パートが、それまで見てきた映像内で得られたヒントを「仮説」という形でパズルのように埋め込んでいくシステムにあると感じられた。立てた仮説を答えにしていく実写ドラマ...まるで刑事ドラマを体感できるような一作だが、それを実際に、ドラマのように脚本の流れ通りではなくインタラクトさせながらやらせるのは、なかなか難しいよね。という一作。

 しかしながら、実験的で目を惹く新システムであるこの推理システムは見逃せない。早速見ていこう。なお、本作は公式より一切のネタバレ厳禁のお達しが出ているため、当然ネタバレはナシで書いていきます。システムの紹介用に掲載する画像は全て自作です。冒頭画像は主人公の顔だけなので許されると信じて。



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ストーリー

 踏み込んだところまでは語れないが、公式サイト準拠で作品を少し紹介。2022年春、小説家の主人公が、とある名家の御曹司より、その実家で発掘された白骨死体の調査を依頼される。それに加え、どうにもその家には『不老の果実』が眠っているらしく、それをめぐる過去と現在の殺人事件を解き明かす―――

Overview

 過去の事件は名家の先祖様が執筆した物語を追体験する形で、現在の事件はそのままの画で展開されるのがまずひとつの特徴で、過去の話の際はその場の雰囲気作りが『あぁこの時代っぽい』と感じさせてくれる、実写ならではの「空気感」に浸ることができる。

 映像は比較的長いものの、一時停止が可能なので途中でお手洗いに立ってもOKだし、当該カットシーンの最初からもう一度見たり数秒巻き戻して見直したりもできる親切設計である。事件を解き明かす「仮説」を立てていくシステム内でも、その「仮説」を得たのはどのシーンだったか?を再確認することも可能。推理ゲームとしてのポイントはしっかり押さえたベーシックな設計でプレイ自体は快適。だが、この「仮説」というピースを嵌めていく部分がどれだけ楽しめるかでこのゲームの評価はガラリと変わってしまうだろう。詳しくは後述するが、『んなわけねぇだろ!』な仮説が繰り広げられて無駄な演出を見たり、そもそも「仮説」が「仮説」の域を出ないため解決パートでの問いへの取っ掛かりが弱めで、終始不安定なプレイングとなったりで、他の推理ゲームとは違ってパキっと『犯行手口ヨシ!論拠ヨシ!犯人ヨシ!証拠ヨシ!』みたいには進行できない。それが本作のいいところでもあるが、ひとを選びそうな部分でもある

 

実写パート(問題編)

 全編実写なのでストーリー展開はオート。ではボタンで何をするのかと言うと、前述の一時停止や巻き戻しなどのほか、下部の黒帯部分で人物や単語の情報を閲覧することができる。これがかなり便利で、登場人物がそれなりにいるお話の場合は『今喋ってるの誰だっけ?』とか『あれ、このひと誰の奥さんだっけ?』みたいな人間関係まで補完してくれる、いわゆる Tips が映像進行と同時に確認できる。Tips 機能が搭載されている作品は Tips で別画面に行く場合がほとんどだが、本作では映像体験に集中させるためか、このような方法が取られている(註:別画面でじっくり情報を読むことも可能)。人物以外にも、キーワードがあるとその情報も表示してくれる。

この機能はテレビドラマにもあるといいなと思いつつ、ゲーム媒体だからこそできるやり方だなと思いました。テレビ側はdボタンでこういうの見られるようになるとかしてくれないかなあ(dボタンなんか押したことないけど)。ちなみに上掲の自作画像では台詞の字幕が出ているが、字幕オフにすることもできるので、そっち派の方は設定を要チェック。

 問題編というのは公式が使用している用語で、事件が発生すると推理パート(推理編)へと移行する。

 



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推理編


※本来はもっと豪華な画面です

 

 推理編ではヘックス状の『論理の路(みち)』が展開され、赤マスに浮かび上がっている問いに対し、右側のピースをグレーのエリアに嵌めていくことで「仮説」を立てていく。「仮説」も、画像では緑のシーンの下にしか無いが、様々なシーンから嵌まるピースを探して持ってくるのだ。ちなみに画像では存在しないが、問いの赤いマスとピースにはそれぞれ違う模様があしらわれており、全く検討がつかなくて困ったな~という時はその模様をヒントに嵌めるものを見つけていくというプレイングも可能。

 このあたりが『刑事ドラマを体感すると難しい』ポイントで、被害者の人間関係や現場の状況などなど、思い当たる点はいくつもあるような問いから、事件に関係する「仮説」を「選んで立てている」のを「脚本に沿って」進めているのが刑事ドラマなわけで。そこから「脚本」が失くなって『あなたにおまかせします<3』となった瞬間の難しさたるや。前述の模様はその救済策として見ることもできる。

 本作で仮説を立てる前に声を大にして言いたいのが、事件に対しての初動捜査が弱すぎる。『なんでこんなものの仮説が要るの?事件が起きた瞬間にまわり見とけばわかってたじゃん』と思わずにはいられなかった。たとえば、コップが倒れて中の水が零れていたとする。その水の滴る速度や床の水たまりの具合などは、予め初動捜査として確認しておけば仮説を立てるまでもないこと。こういうものに対しても仮説を要求される場合があり、現場をもっと調べてから説を立てにかかってくれよ...。と感じた。

 

 そしてこの『論理の路』だが、どう考えても不要なおバカ仮説選択肢がある。多くの仮説に対して、そのシーンのテキストオンリーのダイジェストないし、死因に直結するものであればニュース番組でもよくあるような 3D の再現映像が流れる。なので、路づくりは存外に時間がかかる。そんな中で『被害者はバナナの皮で滑って石に頭を打った』みたいな仮説があると無視したくなる。絶対違うやんと。しかし、仮説の量が足りないと、充分な推理にならずバッドエンド(リトライ)になる。これがジレンマ

 加えて、ここまで「仮説」「仮説」と何度も言ってきたように、作中でプレイヤーが組み立てるのは全て「仮」の理論でしかなく、決定的な事実をベースに犯人を絞り込んで...といった推理ゲームのお約束が通じない。『誰しもに犯人の可能性がある』前提に立って事件の捜査をするのは姿勢としては立派なのだが、基礎工事の無いところに「仮説の塔」を「仮設(←」していくので、「論理が通っている」感じはあまりないし、全てを埋めきったとしても『論理の路』が繋がった!犯人はお前だ!となるカタルシスは私は感じられなかった

 2個めのツイートは、ヘックスを埋めきったものの自分の中で全く犯人が見えなかったときの正直な感想ですね。

 

 『論理の路』を繋ぎ終える(タイミングはある程度任意)と解決編スタート。仮説を食らわしてやれ!

 

まとめ

 『春ゆきてレトロチカ』、全編実写+”新本格”ミステリを銘打ち『プレイヤーが事件を考えていくさま』を『論理の路』として可視化させたのは面白い試みであったと感じられる。他の推理ゲームだと、推理を始める場面や証拠を突きつける場面になると画面の前でうんうんと考えがち。しかし本作は、プレイヤー自身に「仮説」を立てさせ、あらゆる可能性を見せそれを情報として与えることで、事件の全容に迫りやすくなるよう心がけた作品だったのではないかと思う。だが、所詮仮説は仮説の域を出ないので、主人公はもう閃いているけどプレイヤーがついていけていないこともあるのではないだろうか。他作品では圧倒的に「事実」や「答え」を並べ立てていくためだ。

 私自身は本作の『論理の路』を繋いだ際の充実感や、それによって物事の整理がついた気持ちは残念ながら得られなかった。しかしながらここまで述べてきたように、「誰もが犯人である可能性を捨てずに仮説を立てる」「ひとつの問いに対してもあらゆる仮説を考える」、刑事ドラマを体感するのに近いプレイフィールを得られるのは間違いないと言えよう。私はそれらを見てきた方であったので良い部分も悪い部分も少し大きく感じられたのかもしれない。もし、刑事ドラマを自分で動かしてみたい!という方がいらっしゃるのであれば、ぜひオススメできる一本であることは間違いない。

 そして私は、過去の実写ゲームに旅立つのであった。


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