アドベンチャーゲームの入江

アドベンチャーゲーム(ADV)を600本以上持つ筆者が、商業ゲームプランナーの視点からADVを紹介するブログ。ギャルゲーからミステリまでADVならなんでも。

【PS4/Switch】『シンスメモリーズ』(シンメモ)感想。雨が上がって見えたのは、「星になった『メモオフ』」。

【※注意】本記事には軽度のネタバレが含まれます。

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 「『Memories Off』シリーズのコンセプトを受け継ぐ」との謳い文句で発売された『シンスメモリーズ』『Memories Off』といえばシリーズを通して「かけがえのない想い」「雨」をキーワードとした切ない恋模様を描いてきた作品で、2018年発売のシリーズ8作目及び翌年発売の同作ファンディスクにてシリーズ終幕が告げられた。しかしながら、20周年記念配信にて『シンスメモリーズ』の開発が発表。『メモオフ』のコンセプトを継承し、作品自体も「継承」の物語と謳った本作にあったのは、『Memories Off』シリーズで長く降っていた「雨」が上がって見えた星空に見える、星になってしまったこれまでの『メモオフ』の想い出たち。シリーズの新生は残念ながら失敗と言わざるを得ず、「ミスターメモオフ」にまで泥をかけた本作は、「『メモオフ』でなければよかったかもしれない」という評価だ。

 

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Overview

 『Memories Off』は、主人公やヒロインの心に降る「雨」に「傘」を差してあげるような寄り添い方を特徴としていた。一方『シンメモ』では主人公が、交通事故死した、何でも屋のスーパーヒーローだった兄と自身との対比で深い後悔の檻でもがいているところを、ヒロインや家族の言葉でその檻を壊し、たったひとりの「自分」として誰かの力になっていくという話になっている。そこには、最初に書いたような「『傘を差してやればいい』」というシリーズではお馴染みだったあの助言は存在せず、積極的に周囲に関わり、巻き込み巻き込まれて「自分」が求められているに気付いていく。

 檻から脱しようとする主人公が取る選択は大きく言うと2つ。ひとつは、これまでの幼馴染の関係を継承した、ヒロインの家の旧宅リノベーション計画。そしてもう片方は、初めて「兄ではなく自分」を頼られる形で依頼された想い出の品探し。このいずれかの仕事の中で、かけがえのないひとを見つけていく作品だ。

 

 大学生モノということで、どことなくシリーズ3作めの『想い出にかわる君』(こちらはメモオフ初の大学生モノだった)を彷彿とさせる雰囲気や、同作にもあったヒロイン同士の明確な対立と選択が組み込まれていた。女の子同士が自分の想いを本気で吐露し意見がぶつかりあう、いわゆる「修羅場」は『シンメモ』にも変わらず搭載されている。が、「想い」をぶつけあうのが『メモオフ』と考えているのだろうか?『メモオフ』のコンセプトを継いでいるのであれば、それぞれの「かけがえのない想い」を探し・迷い・ぶつけるのではないだろうか。そう考えてしまうのはシリーズのファンだからだろうし、だからこそ『メモオフ』でなければよかったかも、という評価にも繋がる一因だ。
 要所要所に「かけがえのない想い」というワードは出てくるものの、恋をする流れとしては一般的な恋愛ADVと同じような、「一緒にいるうちに意識するように...」に近いものを主人公のあまりの鈍感さも併せて感じ、決してドラマチックなシナリオとは言えないものだったと感じられた。

 

想い出の品探しをしたかったのに

 筆者は作品の事前知識をほぼ入れず、ゲーム内で出会って好みのキャラをまず攻略するタイプです。本作では「祖父の想い出の品探し」を依頼してきた中国人留学生・黄春玉(ほぁん-ちゅんゆー)さんが、シナリオテーマにも興味を惹かれたため話を進めていくことに。その想い出の品というのは曽祖父の代から継承された大層珍しいものなのだが、ある時を境にやむなく手放してしまう。そしてそれを熱心に探していた祖父は何故か急にそれを諦め、この品について話そうとしなくなったという。そして、数年前に主人公たちの暮らす澄空の市に並んだことまでは突き止めたのだが、そこから情報が辿れず、一緒に探してほしいと。これは何かあると期待を膨らませていたところ、このルートでの対立ヒロイン・大山優梨子...芸名を綾瀬ゆかりとして活動している休業中のアイドルが登場。どうやら現代の世界ではファンの多いアイドルグループのメンバーの1人で、その圧倒的な歌唱力が特徴らしく、春玉も彼女の復帰を熱望するひとりだった。しかし、頑なに歌おうとしない優梨子に対し春玉は、主人公に想い出の品探しとは別に、優梨子を元気づけてほしいとお願いをしてくる。

 春玉の話に興味を持ってこっちへやってきたのに、当の春玉も優梨子と密接に関わるようになってしまい、こちらのルートはテキスト量ではおそらく8割...体感では9割以上は優梨子の復帰を目指すあれやこれやの話が展開され、失せ物探しはどこかへ消えてしまう。全く望んでもいない話がずっと流れ続け、早く探しものをさせてくれと何度も願う、興醒めもいいところの「想い出の品探しルート」だった

 その品物に関しても、一応少しずつヒントは出てくる。が、最後にはそれを入手したのがあまりにも漠然とした人物像となって行き詰まってしまう。曰く、東京の大骨董市で、若い子が、他の商品には見向きもせず例の「想い出の品」を買っていったのだという。この「想い出の品探し」もちゃんと決着はつく。つくのだが、大量の伏線らしき表現を全て無かったことにする結末で、本気で想い出の品探しをやりたかった人間の期待感を全て踏み潰してくれた、非常に印象の悪いルートでした。優梨子に関わりたくて来たルートじゃないのに強制的に関わることとなり、優梨子を選ぼうが春玉を選ぼうが主人公がやっていくことに大きな変化は(優梨子の場合失せ物探しをやめること以外に)無い。「初めてお前が取ってきた依頼だ」と、あの時後押ししてくれた親父が悲しく見えるよ。

 



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旧宅リノベーションルート

 こちらでは、主人公とその幼馴染、地域の大・代議士先生である北條家の娘・北條ちはやと、その付き人の一族である伊勢陽詩(いせ-ひなた)がメイン。この2人は先祖代々「継承」されてきた「家」のしがらみや環境に大きく悩まされることに。そしてまた、主人公自身も、この幼馴染というずっと続いていた関係ですれ違いに巻き込まれていく。こちらはコンセプトである「継承」の物語らしい内容となっていました。

ちはやが家柄のせいで形成されてしまった今のこの性格に、それを許し庇護してきてしまった陽詩と主人公。ある日、陽詩の長年の鬱積された感情が爆発し、その関係性は決定的に変わる。誰かが一歩踏み出し、はたまた誰かは一歩退いてしまったり、踏み出しすぎてしまったり...という関係性の描き方は上手だったと思います。

 陽詩ルートはまた、2021年という現代に在るリアルさ...コスプレでのゲーム実況配信を絡ませているあたりに、なんとなく『メモオフ』では出来なかったシナリオの雰囲気を感じました。『メモオフ』世界の時間軸は前作でようやく、現実で言うと2010年頃といった具合だったものを、『シンメモ』ではきっちり2021年前後に合わせて来ているので、こういったいわゆる YouTuber みたいなことをやるヒロインがいても不思議じゃないなと。このあたりは『メモオフ』を終わらせないとやれなかったことでしょうし、新しい挑戦はいいことだと思います。

 

 ちはやと、ここまで出てきていないヒロイン・里見英(さとみ-あずさ)のルートに関しては作品の根幹になるネタバレ回避のため詳しくは扱いません。ただ、両ルートとも、最後には主人公という大切な存在と「芯」を得て堂々とする、強い女の子の姿を見せてくれました。本作が全編通して「傘を差してあげる」物語ではない、「檻を壊してくれたかけがえのないひとと歩む」物語仕立てになっているのは、大切なひとを失って落ち込んでいた『メモオフ』1作めの主人公と似たような境遇でありつつも、その心を立ち直らせるアプローチを変えることで「新」をアピールするテーマがあったのではないかと思いました。

 

堕ちた「ミスターメモオフ」

 ここまで書いてきたように、本作は「傘を差してあげる」物語ではありません。従って、そういったアドバイスをこれまで主人公にしてきた「ミスターメモオフ」こと稲穂信も完全にサブキャラに降格し、喫茶店というみんなが集う場所を提供しているだけになりました。稀に特有の「察する能力」を発揮することはあったり、レコードをかけてもらうと昔のBGMと信のちょっとした回想が聞けるファンサービスはとても良かったりですが。

 ただ、個人的に信じられないし、許せないのは、シリーズを象徴してきたこのひとの扱い。信はそんな無鉄砲に動いて法まで犯すおちゃらけた存在だったか?寂しいからって慰めにあんなものを見ようとする存在だったか?作中では自身の怪我が増えることを顧みずに女の子に怪我をさせなかった、というまあ信らしい行動もあって前者は不問とされたが、『メモオフ』が築き上げてきた稲穂信の像はこの2つで完全に破壊されたと思いました。

 後者の「慰め」のために...に関してもそう。色んな女の子を見てきて、悩める青年を時にはそれとなく、時には大胆に導いてきた彼であっても、一度そういう話をされると「あぁ裏では...」なんて思ってしまう。言えば、アイドルのスキャンダルみたいなもの。過去作の一部である『ふたりの風流庵ぷらす』をやっていないので信と奥さんの馴れ初めをそこまでよくわかっていないのだが、前作で結婚して子供がって聞いたときは「やってることやってたんだなあ」とは思いましたが、それは祝福できたものだった。

 ただ今回のは話が違います。私が個人的に「こういうの」に抵抗が強いのは事実ですが、あまりにも信らしくない本作の信は、ミスターメモオフに泥をかけたものだったと思います。これもまた「『メモオフ』じゃなければ」の所以にあたりますね。本作がPC移植だったり、「今回の」稲穂信の役回りが全く関係ない新規の恋愛ADVならそれで終わっていたでしょう。しかし、歴史や想い出があるものは、素直にそうさせてはくれないのですよ。

 

謎が残りっぱなしのシナリオ

 既にトロコンしましたが、わからないことがいくつかあります。想い出の品探し中の描写を全部投げた点もそうですが、

<以下ネタバレ>

1.信と黒幕の関係。
カフェの常連で歳も近いため良い話し相手、と言っていた関係には見えない対立がありそうにしか思えない。「大人は汚いことをする」と信が言っていたが、子供を人質に取られているとかならわかるが実態は「慰め」のための手筈の貸与。シナリオ内の一言では結びつかない。

2.主人公の兄の彼女を自称する女性の素性。
彼女は有益な情報をくれたり、主人公を彼氏の弟として優しく関わったりしてくれるが、ヒロイン2名から「嫌な感じがするひと」と言われている。また、発言時たまに目のハイライトが消える演出があるのにも関わらず、これらに関する説明が全く無い。

3.主人公兄の交通事故の相手
これは想像だが、この相手は長い髪の女性だったと描写されていることから、2.に挙げた女性が事故の相手だったのではないだろうか。だからこそ事故の証人のことも知っていた。
だとして、「兄の彼女」である証拠は無いし、「嫌な感じがする」説明にはならない。こっちも想像で言ってしまえば、ただ主人公兄に助けられただけの存在で、彼女なんかじゃないのかもしれない。主人公兄の具体的エピソードが出てきていないことや、「嫌な感じ」は「嘘の色」なのではないだろうか。

 ...と、描ききれていない部分が多いように思える。誰も彼もシナリオに影響する存在なのだから、それをゲームの中で描ききっていないのはマイナス。設定資料集に書いてあります~だったら、許さない!(英の真似)

 

その他不満点

 旧宅リノベーションルートと、想い出の品探しルート。その中で各ルートに宛てがわれているヒロインのエンドに行くわけだが、まさかのヒロイン直接選択制高まる場面が来たら、どっちのルートに行きたいかを選ばされる。恋愛ADVとしてのゲーム性がさよならバイバイしました。一応バッドエンドもありますが、特定のルートにしかありません。だからこそ許せないのが、そうやってヒロインを選ばせるのに「想い出の品探しをやりたいんだよ!」と思って春玉を選んでも結局優梨子の話に付き合わされること。

 そして、各ルート内でヒロインを選択するという形式のため、全ヒロインのエンディングを見ようとすると、ある程度流れが同じものを2回は見ないといけない点。特に、1回見たら答えがわかってしまうものをもう一度見せられるのは退屈である。

 また、全ての選択肢が2択になっていること。3択・4択の選択肢が存在していません。『メモオフ』といえば、選択肢が失われた恋愛ADV界で、2018年発売の前作においても頭を悩ませる多数の選択を維持していたことから、業界歴19年の経験値を見せつけられて感動するくらいでした。が、本作では数を減らし2択オンリーに。特にちはやルートは選択肢が無く読むだけの場面が非常に長かったことも付記。以上の事柄は非常に残念だったポイント。

 あと、主人公の名前の誤変換がさすがに多すぎです。字の形が似ているからって、同じ間違いがありすぎです。

 

まとめ

 「『Memories Off』のコンセプトを受け継ぐ」作品として発表された『シンスメモリーズ』は、大学生モノ・ヒロインの明確な対立構造という点からシリーズ3作目の匂いを感じさせつつ、1作めの主人公と同じく大切なひとを失った水底からの立ち直り方へのアプローチを変えた、『メモオフ』のエッセンスはある新規作、と確かに言える。

 シナリオにおいても「継承」が意識されたテーマのヒロインが多かったものの、その「継承」の話を途中で投げて別の偶像にかまけたあげくそれまでの積み重ねを無にした「想い出の品探しルート」は悪印象でしかない。一方、パッケージヒロインが主体となる「旧宅リノベーションルート」は受け継がれてきたそれぞれの環境に悩みつつも進もうとする、本作で描こうとしていたであろう物語をきっちり描けていたと評価できる。

その「受け継がれてきた環境に悩む」というのは本作『シンスメモリーズ』においても例外ではなく、『Memories Off』が作ってきた世界観をどうリライト・リファインしていくかは大きな課題であったと感じる。『メモオフ』世界の時間軸を一気に進めたことで描けるようになった良さと、『メモオフ』の伝統をあるところでは残し、あるところでは切り捨てた本作は、後者に縁の無い新規層にとっては今風の話と感じられ、既存層には賛否両論を呼ぶのではないだろうか。

声優陣には新人を起用する「青田買い」を行い過去の『メモオフ』を踏襲しつつ、キャラクターデザインは一新し生まれ変わって進もうとした『シンメモ』だが、コンセプトを受け継ぐと言うからにはチラついてしまう、過去の想い出たちには敵わなかった。「かけがえのない想い」を求め、気付いた時の葛藤。そして「かけがえのない」ものだからこそ譲れないぶつかりあい...そういった「想い」が悲痛に吐露されるようなシーンは無く、ヒロイン直接選択の前の「ヒロイン対ヒロインの考え」を基にした口論の後にどちらを支えるか?を選ぶ恋愛ADVになってしまった本作。確かに『メモオフ』らしい雰囲気を感じるところはある。しかし、そこにあるのは『メモオフ』ではない。『シンメモ』なのだ。あの日、机で昔の写真を握りしめて泣いていた彼女や、大切なひとの事故死に自分が鉢合わせていると嘘をついて遠ざけようとした彼女や、大雨の下校庭でキスをしたあの『メモオフ』は、本作における稲穂信の扱いと共に終わった。

 

 あがらない雨があがって見えた星空には、
 星という想い出になってしまった『Memories Off』があった。

 

 

 

 



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