アドベンチャーゲームの入江

アドベンチャーゲーム(ADV)を600本以上持つ筆者が、商業ゲームプランナーの視点からADVを紹介するブログ。ギャルゲーからミステリまでADVならなんでも。

【Switch/PS4】『アノニマス・コード』感想・レビュー。システムの難しさと、7年越しの物語に悲喜交交【発売待機ガチ勢】

 『今冬発売予定』からいくつの冬を経たか、初報より7年以上、情報が無い中で唯一の試遊が可能だった TGS から約6年の時を経て、ついに『アノニマス・コード』が発売されました。

 元より、E-mote 採用とバンドデシネ風のスチルが目を惹いていた本作は、当初 Science Visual Novel (SVN) として発表され『科学アドベンチャー』とは別物と謳われたが、結局統合されてしまった。そんな本作の『トリガー』システムは、ゲームデータのセーブ&ロードという、プレイヤーにとってゲームから独立した絶対安全圏な領域に踏み込んだ前衛的な仕組みとなっていた。

 しかしこの『ハッキングトリガー』。その性質上「攻略」と非常に相性が悪い。そのためか本格使用の場面はかなり限られた。そしてそれを鍵に展開される物語も、7年待って味わえた喜びと、7年経ってこれかよ...という悲喜交交といったところだ。早速見ていこう。



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Overview

神を、ハッキングせよ―――

 2037年末の東京・中野を舞台に、系列作品『ロボティクス・ノーツ』の更に未来をゆき、近未来的な通信や UI が特徴的といえる本作。相手のいないはずの待ち合わせに現れた謎の少女を起点に、世界の未来をかけた『困っているひとを放っておけない』ハッカー集団の物語だ。E-mote やバンドデシネに関して本格的な情報解禁後に記事にしていたメディアもあったが、これらは初報ないし TGS 試遊の時点で完成されていたもの。同じく E-mote を採用した『Song of Memories』とは一味違い、「動かしすぎず」キャラの立ち絵をその感情表現や仕草の表現として上手に使いこなされているのは、時間をかけただけあってか次世代の 2D ADV の表現方法を感じさせられた。バンドデシネ風の絵柄になって漫画調に進む場面は、『バディミッション BOND』が記憶に新しいだろうが、コマの動きとフキダシの表示を巧みに扱い、E-mote と併せて従来の ADV とは表現の面に関して一線を画すレベルのものであることは確かだ。

 肝となる『ハッキングトリガー』は、主人公・ポロンがゲーム感覚でセーブデータを作っていくので、ヤバい場面や情報を入手し先手を打てるようになった場面で【ロードを促す】だけというもの。トリガーの発動箇所さえ間違えなければ、ロードするデータはゲーム側に操作を乗っ取られてロードされる。この、操作を乗っ取られる感覚というのが2016年の TGS 試遊では非常に斬新であったが、自分自身のロードとポロンのロードが【一本のゲームになって明確に違う性格】と気付いたら、あの時の感動はどこかへ行ってしまった。

 物語は、一番最初のティザームービーで感じられた壮大さから劣った印象。完成させるために、ガウディ・コードの詳細やケネディ暗殺事件の真相の部分、左上に出ていた年表部分などはカットされてしまったのだろう。強いてこの動画の中で最もストーリーに関わっていたものは、『ファティマ第3の予言』だろう。

 発表会や各種インタビューで志倉氏から語られていた『世界層』という新しい考え方も大きくオミットされていると感じられた。結果、『地球シミュレータ』や『世界層』あたりは「無くてもこの物語なんとかなったんじゃね?」と言わざるを得ない印象。恐らくは経営判断であろう、発売を優先させるために風呂敷をカットして畳んだと思われるのは残念でならない。

 

ハッキングトリガーの難しさ

 ハッキングトリガー、セーブ&ロードの使用は厳密には2種類あり、ひとつはプレイヤーがポロンに促してロードをさせるもの。そしてもうひとつは、ポロンが自分からこのロード画面を開いてロードをするものだ。前述の通り、ハッキングトリガーの使用箇所に関してはほぼノーヒントと言っても差し支えない。わからなければ1セリフ毎にトリガーのボタンを押せと言わんばかりの難しさはある。しかし、そうやって自身でトリガーの発動をさせるのはわかるが、ポロン側が勝手にロードをしてゲームを進めていくこともあるのが腑に落ちない。『セーブ&ロードの能力を手に入れた』とゲーム中でもあるため、ロードも自分で出来ると読めるが、だったらプレイヤーによるロードとの違いは何...?となってしまう。で、大体が事件が起きているときにプレイヤーがトリガー発動のタームなので、無理にゲーム的にしている印象も否めない。

 また、トリガーの正しい発動箇所で発動をすれば間違ったデータをロードすることはないのはやや退屈な点。発動をしたらゲーム側に操作を乗っ取られるが、ロードに使用されないデータがごまんとある。こいつらはプレイヤーのセーブデータスロットを上書き不能で無意味に埋めていくだけなので、ひとによっては不快と感じられるのではないだろうか。

 ハッキングトリガーそれ自体の難易度と、ゲーム的に成立させる難易度の両面が伝わっただろうか。トリガー本体はしっかり物語の流れを汲んで、主にオートセーブからのロードを使って発動へとこぎつける。それはアドベンチャーゲームとして、物語の中からヒントを拾う正しさはあれど、全てがそうじゃないことによる納得感のなさやロードそれ自体は失敗しないという一本道さが、この7年間、開発陣を悩ませていたのだろう。

 実際、科学アドベンチャーライブ2018の前段で開催されたワークショップで本作の話題が出た際、『今何回目のロードか、という台詞をどこまで入れるか迷っている(意訳)』という話がなされていたが、『これが56回目のロードだな』なんて言われる箇所も言われそうな箇所も存在しなかった。きっとこの頃は、ロードがもっと色んなタイミングで自由にできていたのではないかと推察する。また、 TGS2016 の試遊では【ロードしない】ことで進行出来た、従来の科学アドベンチャーシリーズお馴染みの展開もあったが、製品では無視しないといけない場所もありつつ、ロードが大前提になっている。このあたりも開発で頭が痛い問題だったのだろう。

 



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必要最小限かつどこかで見たシナリオ

 シナリオは前述の通り、ティザームービーの構想の頃から大きく変わってしまっていると感じている。かつ、この物語を表現するに必要最小限に収めようとされている印象があった。ハッキングトリガーが発現するに至った経緯やヒロインの愛咲ももの顔にあるペイントの出所は不明なままであったり、最終盤でしれっとお世話になった某キャラの出番がなくなっていたり、ハッカーの才能を示すランキング的なものは結局何の意味があったのかなどなどなどなど。描ききれなかったのか、端折りきれなかったのか。

 また、『世界層』という新たな考え方を持ち込むと意気込まれていたのにも関わらず、キャラクターたちは相変わらず『世界線』の話をする。『シュタゲでは世界線...横への可能性を広げたから、アノニマス・コードでは世界層...縦方向へのあらゆる可能性を持たせる(意訳)』考えは何処へ。本作の世界には、地球のあらゆる事象をシミュレーション可能な、『地球シミュレータ』が存在する。その『地球シミュレータ』の中の地球には『地球シミュレータ』がまた存在していて、その内側の地球には更にまた...じゃあ、自分たちのいる地球は上から何番目の層にいるのだろうか?...これが『世界層』という考え方の元になっていたはずだった。『世界層』が活かされなくなったことで『地球シミュレータ』も形骸化してしまったのは残念でならない。

しかも、何度も何度もロードを繰り返して難局を越えようとしているのって...どこかで見た気がするんですよね...同社の...シュタ......シュタインズ...

 そんなわけで、物語をざっくりざっくり言ってしまうと、近未来の東京に陰謀がやってきて巻き込まれる。いつものじゃーんという感じなのだが、そうとしか言えない。こちらもまた、『ポロンは”シュタインズ・ゲート”というゲームがあったことを(作中で)知っている』という志倉氏の発言もあったのだが、恐らく科学アドベンチャーへの統合や、本作の宣伝のためにシュタゲのアニメの一挙放送を行ったあたりから、やはり「絡めて」売る方針を取ったとしか思えないのは残念。『シュタゲがあったことを知っているポロン』では絡ませ方は弱かったのだろうか?少なくとも『ロボティクス・ノーツ DaSH』よりはマシだとは思うのだが。

 

まとめ

 長く長く待つほど、やはり期待値というものは高まってしまう。ただ、ゲーム制作の現場にいるものとしてこれはよくわかるのだが、風呂敷を広げ過ぎると完成しないため「引き算」を行う必要があるのだ。本作は当初の構想がそのまま出てきていたら、それはそれは今よりも巧みな物語だったに違いない。しかし『現実世界の技術の進歩が早すぎて、当初の2036年ネタが使えなくなった』『志倉氏が未だにアイデアを持ってくる(2018年ワークショップ)といった発言たちが示すように、開発の長期化と近未来という世界観のために、路線変更を強いられた箇所は多かったと推察される。それが残念ながら、『世界層』という新たな考えを活かせずやはり『世界線』の理論から離れられなくしてしまったのではないだろうか。

 システムの要であるハッキングトリガーにも大きく手が入っているに違いない。ロード回数は気にされないし、ほとんどロードが前提のつくりになってしまっている。アドベンチャーゲームらしく、台詞からトリガーの発動箇所を推測するのはポイントとしてあれど、一部を除いて上手く成立しているとはお世辞にも言えない印象が残る。

 科学アドベンチャー第5弾、とはもう言わなくなっているが、発売当初『超常科学NVL』扱いだった『Occultic;Nine』を除けば、『Chaos;Child』以来の(出は違えど)科学アドベンチャー枠での新作となった『アノニマス・コード』。『Chaos;Child』は私も非常に感銘を受けた作品で、「その次」という期待さえも本作は背負ってしまったのかもしれない。ちょうどよく今年2月には Switch に『Chaos;Head』とともにカップリング移植がなされていることもあり...だ。残念ながら本作は『今冬発売予定』からずっと待ち続けていた期待に答えることはできていない印象だ。

 加えて、科学アドベンチャーシリーズは「Steins;なにがし」の新規展開予告や、フルアニADV『Steins;Gate 0』開発で今後も『シュタインズ』頼りとなってしまうのが見えているのが非常に残念な点。MAGES には『五等分の花嫁』で稼いだぶん、しっかり「将来有望」な次の柱を立てていただけることを願う。

 

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