アドベンチャーゲームの入江

アドベンチャーゲーム(ADV)を600本以上持つ筆者が、商業ゲームプランナーの視点からADVを紹介するブログ。ギャルゲーからミステリまでADVならなんでも。

【Switch/PS4 etc.】2022年上半期最高のADV!『AI: ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』レビュー。深化する打越シナリオに震えろ!

 2019年9月に発売された『AI: ソムニウムファイル』の続編が登場。前作は『infinity』『integral』シリーズの総決算ともいえる内容かつ、現代ユーザーにも向けられた、総当たりではないスムースなポイント&クリック ADV に仕上がっていた。本作はその操作性・ユーザビリティはそのままに、シナリオの打越鋼太郎氏が前作で総決算を行った『infinity』『integral』を超え、次の段階へ進んだことを感じさせられた恐るべき一作。

 このシナリオを引っ提げ、前作の反省を活かし遊びやすく仕上げつつも新規要素も加えるチャレンジを試みた本作は、2022年上半期最高のアドベンチャーゲームを言えるのではないだろうか。シナリオ面のネタバレは一切ナシで、本作を見ていこう。



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【あなたが、わたしの AI を引き裂いた】

ストーリー

 最初に遺体の【右側】が見つかったのは、6年前のことだった。遺体には謎の QR コードが刺さっており、そこからは謎の動画にアクセスをすることができた。が、どれだけ探しても遺体の【左側】が出てくることはなかった。そして現在。死亡推定時刻からは先程まで生きていたと言える、謎めいた【左側】が発見された。ABIS 新人捜査官の伊達みずきが遺体を発見し、接近を試みたところ、遠距離より謎の発砲が彼女を襲う。遺体に触れられたくない何かがあるのか? ABIS 特製のスーパー AI であるアイボゥとタマの力を借りつつ、新人捜査官の龍木とみずきがこの『ハーフボディ殺人事件』を追う。

 

Overview

 基本的には続編ということで時間軸も延長線上であるが、本作からのプレイでも全く問題ないつくりとなっている。ただ、前作をプレイしておくとより楽しめますよ、というタイプの作品ではある(このあたりは『Chaos;Head』に対する『Chaos;Child』のような位置づけができる)。


▲前作から存在するノリだが、アイドルの追っかけと見るなら問題ないだろう。

 システム面も基本的な部分に変化はなく、相棒の AI が詳しい情報を一気に検索してくれたり、AI sight と呼ばれるウィンドウ内に人物やキーを表示してくれるあたりも相変わらず。AI sight は『このひとどんな顔だっけ?』なときに非常に有用である。そして、口を割らない相手には彼・彼女の「夢」の中に潜って心の鍵を解いていく『ソムニウムパート』も健在。捜索は基本 2D のポイント&クリック式、ソムニウムでは 3D の洋ゲーADV式、と和洋折衷が図られているのもひとつの特徴である。


▲通常の捜査パートで、ポイント&クリック式。上部のトリビア領域は新規要素。

 しかし本作は、捜査にも 3D パートを迎え、よりリッチな作りとなった。

 

3D 捜査パート

 3D 捜査パートでは、この事件がどのようなトリックをもって行われたか?をメインに追求する。調べられるものには逆三角の印が出ているので、迷子にはならない。 3D 空間内を歩き回れるその他のアドベンチャーゲームと変わりはない。

 だがここで特筆すべき点となるのが、相棒のスーパー AI 。サーモグラフィ、X線を完備しているので、通常は見えない「なにかの中身」を見通したり、不自然に温度の高い場所などを発見したりと、近未来の警察・探偵の体験をさせてくれるのが特徴だ。

 そしてなんといっても 3D 捜査パートの極めつけは―

再現 VTR 推理

 3D 捜査パートで情報がまとまったら、犯人がどのように・どんな方法で犯行やそのトリックを作り上げ、実践したかを仮想空間内で再現する VTR の主役である犯人に、なぜか主人公がなりきって犯行を再現していく(龍木くんの棒読み具合がまた面白い)。ここで思い出させるのが、『ダンガンロンパ』の「クライマックス推理」。確かに打越氏の属するトゥーキョーゲームズは『ダンガンロンパ』の小高氏が主導しているし、本作もスパイク・チュンソフト発売なので問題はないだろうが、ノリとしてはそんな感じだ。再現中のコマで 5W1H を訊ねられるので、それまでに入手した情報を元に、コマに入る適切な推理を入力していこう。なお「クライマックス推理」は筆者はかなり難しいと思うのだが、本作の再現 VTR 推理は難易度も高くないのでご安心を。あくまで 3D で動かすメインはソムニウムパートだ。

 



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ソムニウムパート

 前作から大幅に改善されたのがこのソムニウムパート。簡単にいえば『Life is Strange』や『Detroit: Become Human』のような 3D 空間内で何かを見つけてアクションをしていくターム。

 本作では分岐条件も非常にわかりやすくなったほか、探索範囲が大幅に狭まった。前作では平屋が並んでいるとはいえかなりダンジョンっぽいものや、周囲が暗闇でヒントも希薄な、非常に厳しいソムニウムも存在していた。が、本作では探索範囲を狭くすることで、ソムニウム内のコマンドに使用する時間(註:ソムニウム内には6分しかいられない設定で、ソムニウム内の何かに干渉するには時間を使用する)へプレイを集中させてもらえる作りとなった。しかしこれが逆にソムニウムパートが時間ギリギリになりすぎて恐ろしいことになってしまった。物語を楽しみたいひと向けに、ソムニウム内の時間消費が1/4になる難易度選択がついているのでそこは安心だが、普通にやってて序盤から残り1分を切るのは後半立ち行かないと思いすぐに難易度を下げさせてもらった...。

 ちなみにこのソムニウムに潜れる ABIS の中でも特殊な捜査員が Psyncer (シンカー)と呼ばれるのだが、このあたりの設定は前作同様ご都合主義的なのが残念。

前作でもそうだったのだが、それまでいくら暴れている人間でも、ソムニウムパートに入るときには同意書にサインをした上で薬を打たれて大人しくなっている。確かに暴かれたくないことは心の中に固く閉ざすだろうから、より凶悪な犯罪を暴きたいのなら Psyncer を志すのはわかる。が、どうあがいても嫌疑をかけられている人間が協力的に眠るというのは考えにくいのではないだろうか。

 前作では『イクラマンふとし』という某サンドボックスゲーをあしらったソムニウムがあったが、今回は今回でまた際どいところを攻めたソムニウムがあったのも面白ポイント。容疑者や「話したくない」ことのある人間の夢の中だからといって、全てが鬱屈というわけではないのがソムニウムパートの面白さのひとつかもしれない。また、ソムニウム内で、制限時間5秒で指示を与える、QTE のような選択肢が新設されているのにも注目(サクラ大戦の LIPS みたいな?)

 

まとめ

 どうしてもシナリオゲーをシナリオ抜きで紹介しようとするとシステム面でのあれこれにのみ終始してしまうが、2D の日本的推理 ADV と 3D の海外製 ADV の融合を本作でも図っている点、そして更に 3D での捜査パート・再現 VTR 推理という新しいリッチな演出も登場したことで、またひとつ高みへと登った『ソムニウムファイル』。

 前作ではソムニウムの攻略難度それ自体がかなり高かったのだが、本作ではまずソムニウムを狭くして探索範囲を絞った上、『鍵則』と呼ばれる、ソムニウム内の行動指針をも示してくれる or 探しながら進んで行くようになり、このお陰でゲームよりを進めやすくなった。

 ソムニウムパートが本作最大の特徴であり、逆転裁判でいう「サイコ・ロック」にあたる、被疑者が隠しておきたい部分にあたるので、ここにテコ入れをしてくれたのは好印象。難しくなりすぎているきらいはあるが、その場合は難易度を落とせるのでぜひ使ってみよう。そして、各々のソムニウムもかなり個性的なものへと深化していた。夢に潜られる対象者の数だけソムニウムはあるが、よくもこれだけ違うシチュエーションやバックボーンを持ったものを用意できるなと感心させられた。

 

 しかし、本作最大のウリは、はじめにも書いたようあの『infinity』シリーズを踏み台に更に深化を遂げてきた打越鋼太郎氏のシナリオだ。前作のシナリオは葉脈のように広がるタイプだったので感じにくかったが、本作のものはまさに『infinity』を超えてきたと感じさせる凄まじいものがある。これに関しては動画などで済ますのではなく、ぜひあなた自身でプレイをして、その感動を確かめてほしい。

 

 そして私は、この感動と6/30発売の『EVE ghost enemies』の評価をもって、本作『AI: ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』を2022年上半期最高の ADV と認定いたします。また我々は打越鋼太郎の手のひらの上で踊らされていた。本当に見事なものです。本作はポイント&クリック式とはいえ、昔ながらの総当り式ではないので、進めようと思えばかなりスムーズに進められる。そして、3D 推理パートや再現推理、ソムニウムパートがいい塩梅で散りばめられているため、普段このジャンルをあまりプレイしない方でもとっつきやすい一作なのではないだろうか。

 

 そうしてまた、私の ADV に対する AI は深まっていく―。

 

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