アドベンチャーゲームの入江

アドベンチャーゲーム(ADV)を600本以上持つ筆者が、元ゲームプランナーの視点からADVを紹介するブログ。ギャルゲーからミステリまでADVならなんでも。

【PS4/Switch】『千里の棋譜』感想。将棋を知らないひとにもADV初心者にも届いてほしい、手堅い良作!

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2020年1本目の新作レビューは『千里の棋譜~現代将棋ミステリー~』! AI の台頭に揺らいだ現代の将棋界が舞台のミステリ系のアドベンチャーゲームだ。

「将棋ってよくわかんない...」「駒の動かし方すら知らない」という方も多いのではないでしょうか?しかし本作は、そんな将棋を全く知らない方でもいつの間にか、将棋に懸ける勝負師達から目が離せなくなってしまう魅力を持ち合わせている。そして更にアドベンチャーゲームとして堅実な作りとなっているので、ADVが好き or 少しでも本作が気になるのなら触れてみてほしい1本だ!

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将棋を知らずとも楽しめる! ~導入編~

本作は女性のフリーライター・一ノ瀬歩未(いちのせ・あゆみ)を主人公に据え、彼女が今話題の将棋界を取材するため幼馴染の棋士長野圭(ちょうの・けい)を通じて将棋連盟会長長峰氏の邸宅を訪問することから始まります。

歩未は将棋に明るいわけではなく、今回の件も編集長から振られた仕事として携わります。そんな彼女が仕事として将棋界を取材していくうち、知り合った棋士達から将棋の基本を教わり、やがては興味を持っていく...。ここが将棋を知らない方にも楽しめるように工夫されている点だと思います。
女性」というのもストーリーに関わる1つのポイント。広く知られる羽生善治九段ら「プロ棋士」になるためには「奨励会」というリーグで優秀な成績を残さないといけないのですが、2019年までにこれを突破した女性は存在しません。この「奨励会」に挑戦する女性棋士・雪村香蓮(ゆきむら・かれん)は「女性でも将棋が出来ることを示したい」との想いをにじませており、伝統的に男性の多い将棋界にあえて女性主人公を宛てがうことで、ゼロからでもより楽しめるように考えられていると思いました。

また、将棋に関する資料として「将棋とはなんぞ?」や「駒の動かし方」という基本中の基本から教えてくれる将棋教室も閲覧可能。

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▲充実の将棋教室!

 

謎が謎を呼ぶ濃密なストーリーと、親切な設計

(承前)長峰会長宅に到着した歩未と長野だが、いくら呼び鈴を鳴らしても会長が姿を見せない。中に入ってみると会長は書斎で倒れており、部屋は荒らされていた。
「何でもない。警察には通報するな、高橋九段に連絡を。」と言う会長、「会長は襲われるのを予期していた」と話す高橋道雄九段。
現場で見つけた3枚の紙に書かれた詰将棋から導かれたキーワード浮かび上がる過去の将棋界「千里眼」
スポンサーにより突如開催が宣言された将棋AIと最強の棋士・翔田名人との「名人」称号を賭けた対局、そしてその翔田名人は行方知れず彼を預かったとする「ショウキ」なる人物からのメッセージ...。

開始してからものの数分でこれだけのことが起きるテンポの良さはとても魅力的で、一気に物語へ引き込まれます!これらの謎を投げっぱなしで終わるのではなく、1つ1つが丁寧に紐解かれていくのも好感触。そして、解決していく中で意外な繋がりが見えたり、また新たな謎が生まれたりと非常に濃い体験が待っています。

謎に迫っていくゲームシステムは、ミステリ系で多い「ポイント&クリック」システムではなく、選択肢で行動決定・行き先を選ぶ方式。

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▲左:どこを調べる? 右:どこへ行く?

本作に複雑なフラグは無いので、アドベンチャーゲームにあまり慣れていないかたでも気軽に楽しむことが出来ます。更に、節目毎に「現在の目標」「重要人物の動向」を一覧で確認出来るのも嬉しい。情報量に頭が混乱してしまいそうになっても、これでおさらいすれば整理してから進められる。人物を指名する際に絵があるキャラならば必ず顔がついているのも、「誰なのか」をしっかり認識出来る親切なシステムで good 。

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▲とある行動決定の場面。長野って誰だっけ?を防止している。

アドベンチャーゲーム初心者にも易しいつくりですが、それが上級者の楽しみを阻害するわけではありません。情報を復習するかは選択制なので、飛ばしても問題ないのです。そして、バッドエンドが多数用意されていることから、決して物足りない内容ではないと言えます。

 

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将棋を知らずとも楽しめる! ~実践編~

現場に詰将棋(※特定の局面から相手を追い詰めるパズル)が残されていたと先述しましたが、これを自分で解くか否かを選択出来るのが将棋をテーマとした作品らしいポイント。解けないなと思ったら、近くにいる棋士に代わりに解いてもらいましょう。ストーリーが進まなくなったり、エンド分岐したりすることは一切ありません。プレイしていてなんとなく「解けるかも?」と思ったら、自分で解く選択肢を選んで挑戦してみるのもいいかもしれませんね。もちろんこの場合も誤答ペナルティはありません。

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▲左:ゲーム側もこう言ってますし... 右:駒の動かし方がわからなくても自然に解いてもらえるぞ。

作中で出てくる用語の一部は、ゲーム進行の中で解説を求めるかを選ぶことも出来ます。もちろん無視して進めても構いませんし、将棋の基本的なことから戦術まで、結構な数が対応しています。

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更に、ストーリーの中で尺を取っていない用語でも Tips 集が搭載されているので、これらを上手く使いこなせば「なんだこれは・・・」となることは少なくなると思います。将棋を知らない方でも問題が無いように導線がしっかりと作られており、本当にゼロからでも将棋界の物語を楽しむことが出来ます。

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▲一番上で書いた「奨励会」からプロになるためのリーグ戦についての解説。

 

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物語の面白さ 

本作は2部構成になっているので、1部ずつ紹介します。

第一部

まずミステリとしての構成が良い!なんとなく「これおかしくないか...?」と感じる違和感がきっちり伏線として機能しており、主体的に事件を解き明かしていく中で「そうきたか!」となることは必至。
ときおり、進行するキャラの視点を選び、同じ時間にこのキャラは誰とどんな話をしてどんな情報を入手していたかが知れる「マルチサイト」のシステムが入っているのも良いところ。

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『DESIRE』が Switch に配信された際の記事にも書きましたが、「マルチサイト」とはある事象に対して2つ(2つ以上)の異なる視点からアプローチをかけるもの。フリーライターとしてある程度自由に動くことが出来る歩未と、将棋界の人間であるがゆえのパイプがあったり逆に対局のために動けなかったりな長野という異なる立場から謎を追うことで、事件をより深く面白く描いています。

第一部では AI が「名人」の称号を奪取することを賭けられた将棋界・棋士達の心情がよく描かれていると思いました。作中でも解説が入りますが「名人」の位は江戸時代から続く伝統のあるもの。それだけはなんとしても阻止しないといけない!と動く棋士の皆さんを見ていると、次第に応援したくなってくるような情が湧いてきました。コンピュータによる将棋は2010年代の中後半にかけて現実でも大々的に取り上げられましたが、本作ではその現実を踏襲しつつ「千里眼」をスパイスに拡大解釈した新鮮なものになっていました。(※本作の原作は2015年のスマホアプリなので、リリース当時はコンピュータ将棋が大流行していました。詳しくは「電王戦」などで検索するといいかも。)

進行の中で棋士が実際に対局することが何度もあるのですが、スピーディな駒の動き、合間に入るコメントや対局者の心情、そして場面を盛り上げる BGM の三拍子が揃って、駒達が躍動する「バトル物」・友情努力勝利の漫画のような熱い展開を感じさせられます。そして、いかにも敗北が濃厚な雰囲気が出てきても「マジック」のような一手で戦況がぐるりと変わってしまう勝負の妙将棋の面白さとして感じられました。将棋について明るくないという方でも、心情の描写や BGM から今どういう局面なのかを掴むことが出来るはずです。

第二部

一切の記録が残されていない「幻」とされる対局で何が行われたのか?そして、気鋭の若き天才棋士が突如姿を消した理由とは?第一部では広く張られた伏線を1つずつ回収していく形でしたが、二部では徐々に明らかになる事実を手に深層へ潜っていくような体験になっていました。幻になった・記録が残っていない・全てが謎...そんな言葉を並べられたら気にならないはずないですし、それを巡って「刺客」と繰り広げる攻防はこれまでと打って変わった緊張感があります。

同じ作品中でここまでテイストを変えられるのは面白いそして、これらは第一部で将棋のことを、初心者のかたでも少しはわかってもらった上で特に気になりそうな話題となっており、フックとしてとても上手いなと思いました。第一部で少しだけ残っていた謎を解決してしまうのも素晴らしい。

二部ではマルチサイトが強化され、より多くの視点から事象を捉えます。ミステリとしても深化していて、結構人がいなくなったり妙な行動があったりと怪しさが増しています。多視点化しても持ち前のテンポの良さは失われないのでご安心を。

コレの存在を語ることは若干アウトな気がしますが、この対局で「遺されたもの」が何だったのか...それが私にとって一番気になりました。これは勝負の妙が詰まっているものですし、昔某刑事ドラマでもネタになったので(?)重要な鍵だと思います。

第一部の躍動感に加え、棋士と棋士、人間と人間が将棋に想いの全てを懸けてぶつかる「人間らしさ」がひしひしと感じられました。幻とされている対局も、伝統ある「名人」を賭けたもので、そこに臨んだ棋士の並々ならぬ決意が描かれています。また、奨励会・三段リーグからプロになるまでもう後が無い長野香蓮の苦悩や死闘も新たなライバルを迎え展開されます。我々は第一部で「ひとつの手が対局をガラリと変えてしまう」ことを見てきており、それを踏まえ「たとえ劣勢でも、きっと...きっと何かがあるんじゃないのか...!」と、対局を見る人間として知らずしらずのうちに感情移入してしまうでしょう。そして、勝負は片方に勝ち星が、片方に負けがついてしまう公平かつ残酷なものであることを思い知ります。決してご都合主義で終わらなかった勝負の結末は、物語として納得のいくものでしたし、全てを賭した棋士(物語に登場する棋士に加え、現実の棋士)にも最高の敬意を払った形になっていました。

 

まとめ

現代将棋ミステリーを謳う『千里の棋譜』、「将棋...わかんないからなあ」と購入を見送ってしまう方もいるかもしれない。しかし本作は、主人公やその人間関係の設定に加えゲームの作りとしても将棋を知らない方でも将棋が何かを基本中の基本から教えてくれる丁寧な内容となっています。更に、アドベンチャーゲーム・ミステリーゲームとして見ても、オーソドックスながら手堅いシステムでしっかり考える余地もありつつバッドエンドも用意されている、ゲームの初心者でも上級者でも楽しめるものとなっており、幅広い層が問題無く触れることが出来る一作に仕上がっていました。

私は子供の頃に将棋を指したことがある程度で本格的な戦法等は全くわからないのですが、対局シーンでは盤面や心情描写・BGMの雰囲気からなんとなく優勢・劣勢といった状況を感じて楽しめました。そうした舞台装置も良い仕事をしています。進めていくうち、棋士のキャラクター達を自然と応援したくなる...いち将棋ファンになったかのような気持ちにもさせてくれる魅力も兼ね備えています。

本作は将棋初心者も熟練者も、アドベンチャーゲームの初心者も熟練者もみんな楽しませられますよと門扉が広く開かれている、定番としてオススメ出来る良作になっている。付録で多くの詰将棋の問題も収録されており、本編以外でも長く楽しめる一作。昨今、外出をなるべく控えるようになどの通達が相次ぐ中、手頃な価格で堅実に楽しめる『千里の棋譜』を購入するのも良い選択と言えるだろう。

 

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おまけ

私がニコニコ動画でマイリストしてあった将棋動画をいくつか貼っておきます。なんとなくで視聴しても面白いと思います。

左:本作のように対局に BGM をつけた動画 右:超高速対局!

 

プロでも(お茶目な?)反則負けをやってしまうものです

 

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