アドベンチャーゲームの入江

アドベンチャーゲーム(ADV)を600本以上持つ筆者が、商業ゲームプランナーの視点からADVを紹介するブログ。ギャルゲーからミステリまでADVならなんでも。

『十三機兵防衛圏』クリア断念から考える「感情」と「重点」の難しさ、「ゲーム論」の対立。

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2019年から2020年頭にかけて最も評価された作品のひとつ、『十三機兵防衛圏』。私はプレイ前に情報を全く入れないタイプなので、話題になった記事を読まず、体験版にすら触れなかった。高評価のみを聞いてきて、そして漸く購入に至ったのだ。

しかし、その『十三機兵防衛圏』のクリアを諦めた。

結局は相性と言ってしまえばそれで終わりだし、万人に受ける作品など稀有なわけで。それでも、この齟齬は何なんだろう?と考えてみた。

 

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【前提】本作で感じたこと

ジグソーパズルのような作品

本作は、13人の主人公それぞれの視点で語られる物語からある1つの答えを導くものとなっている。どの主人公を選ぶかは完全に任意で、どこから読み始めても良いし、始める順番に制限はない。

私はこれをジグソーパズルみたいだなと感じた。

ジグソーパズルは角から嵌めていくという定石はあれど、その手順は自由ですよね。そして、嵌めたピースに繋がるものを探したり、進んでくると別の領域に嵌めてきたものと繋がったりしますよね。

本作の構造もまさにそれ。自分の思ったところから始めることができ、その節に繋がる人物を次に選ぶことも出来る。そして違う視点で見た出来事たちが徐々に繋がってゆき、最後には1つの完成形を見る。

しかもこれは、本や映画で表現することは非常に難しい。13冊の本で1つの物語となっていたとしても、「この次はあっちの巻のNページから読んでね」を連続させるのは非現実的。『十三機兵防衛圏』の物語構造はゲームでしか出来ないものだということは、すぐに感じ取れた。

 

「決められた未来への手筋」が人によって異なる

前項でも触れたが、本作の進行は自由。だが結末は決められている。これを、「決められた未来への手筋」が人によって異なるストーリーを持つ一般的なゲームと同様だと解釈した。

RPG を例に挙げると、ゲーム中に訪れる街や倒すボスキャラ、そして最終ボスとエンディングは全てのプレイヤーで同じ。これが「決められた未来」
しかし、その未来に至るまでの道程は様々。とにかく進めたい人、全滅したくないから堅実に行く人などなど、「手筋が人によって異なる」

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※プレイのコンセプトはあくまで一例。「これらの矢印の要素を2本3本同時にやるよ!」「途中から切り替えるかも」等などあると思われる。

十人十色、プレイする人の数だけ手順がある。そしてその結末は1つ。ストーリーのある作品は、僅かな例外とアドベンチャーゲームを除けば基本的のこの流れになる。

このことから、本作を RPG 的な作品だと感じた。

 

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【難しさ①】「動かされない感情」

10時間のまっすぐな舗装道路

まず本作で感じられた「難しさ」は、結末にたどり着く道の長さ。

私がクリアを断念した時の ADV パートの進行度は3割プレイ時間は10時間2,3名は開放率5割のトロフィーを獲得していた。
補足すると、自身が読み終わったら音声が流れていようとテキストを飛ばすプレイスタイルなので、進めるスピードは早い方だと思っている。

「全然進んでないじゃん」「これからだよこれから」と思われる方が多いかもしれない。しかし、この10時間に驚きや緩急、シナリオの山や谷が一切感じられず、非常に退屈したプレイだった。これはストーリーゲームとして致命的である。

普段プレイするアドベンチャーゲームは、共通+個別ヒロインの物語を1プレイで約5時間程度。出来の良いものならその中に様々な「惹きつける」要素を含んできている。既読スキップ等を駆使して、全ルートクリアで平均20時間程度といったところか。

比べると本作が如何に長いかがわかる。一本道(=シナリオ中に分岐が存在しない。後述。で10時間かけても序の口...まだピースを嵌め始めた程度で全体像すらあやふや...というのは耐え難い体験。加えて、次章で詳しく述べるが、一本道であるが故にゲームの展開が「平板」すぎることも退屈さが助長されている。

※過去に一本道で8時間9時間かかった作品にもいい顔をしていないので気になる方はご参照。

また、テキストがほぼ節単位で表示されるためボタンを押す回数が一般的な作品より圧倒的に多く、精神的にも長いことも挙げられる。一度に入ってくる情報量が少ないため、本作に盛り込まれているであろう大量の情報を受け取りにくいもどかしさが、冗長さを生んでしまっている。

 

他のストーリーゲームは?

では、本作と同じく"「決められた未来への手筋」が人によって異なる"他の作品は、どのようにこれを紛らわせているのだろうか。

再び RPG を例に挙げると、段階的に目標(ボスキャラの撃破等)を設けることで、ボスに向かってプレイヤーの気持ちを盛り上げてゆき、それを倒してひとつの章が終わった時に落ち着いた気分へ戻すということを繰り返している。アクションゲームだとこのサイクルが更に短く、1つのステージ内でこれを複数回体験させている。
これによって、長いプレイ時間でも飽きさせないように(作り手側にいた身としては基本このように)設計している。

本作はこのサイクルを上手く機能させることが出来れば良かったと考える。自由度の高い設計であるとしても、それぞれのキャラ毎に...15~20%ほどの進行度毎に...緊迫したシーンや山・谷、驚きを設けることが出来ていれば、印象は変わっていたはずだ。

極端に変えてしまうならば、『ファイアーエムブレム』や『ギャラクシーエンジェル』などのように「シナリオ→戦闘→シナリオ→戦闘→...」の流れにしてしまえば良い。しかし、戦闘パートも挑むタイミングを独立して選べる作品なので簡単には言い切れない。やはり、(難易度はさておき)シナリオの見せ方に手を加えるのが重要と感じられる。

 

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【難しさ②】「ゲームとしての重点」を何処に置くか

オープンワールド・ストーリーゲーム

『十三機兵防衛圏』最大の難しさはここ。「ゲームとしての存在価値の重き」を何処に置いているかというところ。

結論から言ってしまうと、一番最初の項で述べた「ジグソーパズルのような構造」がそれに当たる。

本作独特のストーリーテリングは、ゲーム以外では困難を極めるはずだ。始点→終点を自由な順序で繰り返すことが出来るのは「ゲーム」ならではのもの。複数人の視点からの物語が代わる代わるに展開される映像作品も多いとは思うが、それは「映像」であるが故に「自由」ではない。そう、「ゲーム」の最大の特徴は「選べる」ことなのだ。

本作で言うとそれは、ストーリーの開放順を思うように選べること。他の進行度による制限はあれど、望むままにシナリオを進めることが出来るのは、昨今流行りのオープンワールド的なストーリーゲームと言える。

しかし選べるのはそこだけで、中に入ると殆ど選ぶ余地が存在しない一見すると、どのフラグを立ててどのエンドに行こうかと考え選ぶことが出来るように見えるが、その実体は一本道も同然。なぜなら、他のシナリオの解放のために全て埋めるハメになるからだ(※「他12人のシナリオを解放率80%にしないと続きが読めない」キャラがいる)

「トライ&エラー」という「ゲーム」が元来持ち合わせている性質(後述)を排除し、敢えてフリーな姿勢で臨めるシナリオにしたことは、新規性としては評価出来る。しかし、ゲーム本来の面白さが失われてしまっていては、全体の評価も底上げすることは出来ない。

 

試行錯誤

私のこれまでのゲーム体験、そしてゲーム会社で制作に携わった経験。そこから導いた論は、「ゲームとは双方向性のあるもので、選び取ることが大事」
そのことをアドベンチャーゲームをテーマに記事にもしたし、商業メディアにも同様の主題で寄稿しているが、改めて簡潔に概要を述べよう。

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1.ゲーム画面において障害物や選択を迫られる場面が出現。
2.プレイヤーは、これをどうやって越えるかを考える。
3.考えた結果の行動が上手く行き、次に進めた!
4.再び選択の時...!

ゲームプレイはこのように、「場面提示→思考・選択して試行→場面提示→...」を繰り返して進行する。もし試行の結果失敗してしまったのなら、再度思考をし適切な行動を選んでいく。
そうしてプレイヤーとゲームとで双方向的な関係をもって進めていくのがゲームで、当然そこには「成功」と「失敗」が存在する。失敗を積み重ね成功体験に変えて乗り越えてゆくのが、元来持ち合わせている面白さだ。(もうひとつ言うと、リスクとリターンという話があるがここでは割愛)
時には失敗しないかもしれない。だがそれでもいい。失敗しないように考えて行動した結果なのだから。

 

『十三機兵防衛圏』を「ストーリー"ゲーム"」として見た場合、これが存在していない。

ADV パートで「何を調べたらいいんだろう?と考えることは無いし、「クラウドシンク」と呼ばれる Tips 集から話題を提示しないといけない時に「失敗することが無い。つまり、選ぶ余地が無い一本道。「考えない・失敗しない」から導かれるのは、結末への滑り台である。

これは近年 PC から移植されている有象無象のアドベンチャーゲーム群と同様で、非常に平板な展開となる。何しろ、考える余地がそこに介在せず、坦々と進めていく他ないからだ。フラグのために会話を聞いていないといけなかったり、アイテムが必要だったりするのは鞍部編でわかっている。だがそれにしてはあまりに幅が狭すぎるし、分岐条件も容易く発見出来てしまう。

良く言うのなら、物語の謎に集中させるため、節毎の謎解きは排除して本筋の思考に集中出来るようにしているとも言える。だがそれでは、今度はそのストーリー達の盛り上がらなさが浮かび上がる。

そう、あくまで本作は「オープンワールド・ストーリーゲーム」を表現するため「ゲーム」という機械仕掛けの存在を媒体としただけで、そのストーリー部分からは「ゲーム」元来の面白さを排除したもの。「物語を読む順番」を思考することは出来るものの、その内容に対し、我々からゲームへの試行と錯誤は存在しない。これは私の考えと致命的に反するもので、だからこそクリアを諦めてしまったのだ。本作は根本的に、「ゲーム」を求める私とミスマッチを起こしていたのだ。

解決は簡単。「ポイント&クリック式」(推理ゲームでよくあるシステム)に切り替えてしまうのも良いが、クラウドシンクに誤答選択肢を設け、プレイヤーに考えさせる=ゲーム・プレイヤー間のレスポンスを設けるのが手っ取り早い。そうすることで、物語内のあらゆる事象の観察に集中し、どれが伏線なのか?どれが必要な情報なんだ?などと考えるようになる。そうであったら、少なくとも10時間で飽きたとは言わなかったはずだし、定められた結末にも楽しみながら歩んでいけたに違いない。

ちなみに、戦闘パートはそこそこ楽しい。囮やヘイト管理など意外と戦略性があり、こちらにはゲーム性があるということは補足しておく

 

(余談)だが世間は...

本ブログの作品レビューで何度も取り上げているが、近年は選択の余地が存在していない作品が非常に多い。5に満たない選択肢、ヒロインルートが始まったら必ずグッドエンドでバッドエンドなんて存在しない...こんな作品がゴロゴロ転がっている。

これは、いつから始まったかはわからない(いずれ調べたい)シナリオ偏重の傾向が原因と見ている。PC 向けの18禁ゲームを嗜む知人の言によれば、「選択肢が多いのは面倒くさい」とのことだ。10年以上前の作品に比べ明らかに選択が減少しているのは事実で、それはこういう声もあったからなのかなと感じている。

 

類似のゲーム

本作と同様に、「シナリオを始める順番を決められる」・「選択の余地が無い」2つの要素を持った良作を知っている。

それが本作の2ヶ月前に PS4 で発売された『アメイジング・グレイス』だ。
こちらの記事でもレビューしたが、『十三機兵防衛圏』を受けての特徴を挙げたい。

◯物語の大部分を占める中盤は、7人のキャラの中から読み進めるシナリオを自由に選ぶことが出来る。
 ヒロインのものならいわゆる個別ルートがこれに当たり、7人全員のシナリオをクリアすると、いよいよ世界の真実へと迫る構成になっている。
 誰から開始してもOK。適度な長さで終わる上、物語はしっかり進む。

◯選択肢は殆ど存在しない
 せいぜいエンディング分岐程度。

選択の余地が無い本作をどうして気に入ったのかと言うと...
15時間足らずのゲームプレイで何度も味わった驚きと、「ループもの」という設定を上手に利用した恋愛を描ききった構成力にある。

本当の「テンポの良さ」とはこういうものを言う。ループの終端への期待と、始点へ戻った時のクールダウン。驚きの世界観設定に悲痛な叫び。これらを僅か15時間で次々に味わうことが出来るのだから、密度が非常に濃い。

たとえ試行錯誤の余地が無いとしても、世界に対する謎解きがちゃんと理解できる形で驚きをもって終わることが出来れば、気持ちの良い作品だったと言えることもある。『十三機兵防衛圏』で残念だったのは、「重点」がズレた上での「大ボリューム」だったことから来る平板で長いとしか感じられなかったゲーム体験だ。

 

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まとめ

「ゲーム」という媒体を活かした「オープンワールド・ストーリーゲーム」を作り上げたと言える本作は、まるでジグソーパズルのように、プレイヤーの数だけ物語の進め方が存在する RPG 的な作品だ。パズルのピースが嵌まっていき、最後に1つの解が導き出された時の快感は計り知れないものになると、プレイした箇所までのボリュームでは感じられる。

だがしかし、「ゲーム」元来の面白さが失われてしまった ADV パートは非常に退屈なゲームプレイで、いつか面白くなるはず!結末は物凄いんだろうな!と期待しながらプレイする心すらどこかに置き忘れてしまう内容だった。双方向性を利用し思考と試行から成功を掴み取る体験を出来ず、節毎に細分化された文章を変わらぬ結末に向かって長時間読み続けることは私には到底不可能だった。

 

本作における我々の齟齬は、「ゲーム」の「重点」を何処に置いている作品なのかと、プレイヤーが何を重視しているのかのすれ違いだ。媒体の利用方法か、持ち合わせた面白さか。「ゲーム」として求めた重要なポイントが相容れないまま、数多の断片的なピースが嵌まっていく様子を見るだけというのはあまりに耐え難い。「ゲーム」におけるストーリーテリングの手法として斬新だとしても、それはあくまで「テリング」の部分だけ。そこに「ゲーム」が付随したとき初めて、私は作品を絶賛することになろう。

 

狂気的な傑作と感じる人もいれば、絶望的な退屈さを味わう者もいる。絶賛されているものでも、激しく批難されているものでも、自分で実際にプレイして感じたものこそが貴方の全てである。まだ触れていない方は、どうかご自身の感覚を大切にしながら触れてみていただきたい。

 

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