アドベンチャーゲームの入江

アドベンチャーゲーム(ADV)を600本以上持つ筆者が、商業ゲームプランナーの視点からADVを紹介するブログ。ギャルゲーからミステリまでADVならなんでも。

【PS2/XB】『トライアングル・アゲイン』&『トライアングル・アゲイン2』レビュー。「短すぎた"音楽業界やるドラ"」。

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 令和のこの時代に、本作の感想を検索するひとはいるのでしょうか。いや、いない。それでも、この作品が世にあったことを記していくのが使命(ADV限定)。

ということで、初代 XBOX で遊べる数少ないADVのひとつである『トライアングル・アゲイン』と『トライアングル・アゲイン2』のレビューです。本作の感想を書いている記事がこのネットの海にたった2件しか見当たらない、本当に「誰も知らないんだな…」と悲しくなる一作です。

 音楽とアニメーションの融合が生み出すミュージック・アドベンチャーをキャッチコピーとし、『やるドラ』を彷彿とさせる、2Dアニメーション+テキストのスタイルで展開される作品非凡な才能を秘めている主人公・蓼科灯(たてしな-あかり)が、音楽シーンに痛烈な爪痕を残し、羽ばたいていく物語なのだが―

 

 

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<STORY>

音楽業界から忽然と消えた天才・蓼科光一(たてしな-こういち)を父に持つ主人公・蓼科灯。「何かにうちこめれば世界は変わるのかな」「でもどうすればいいかわからない」「そうしてあやふやに今日も生きている」ような高校1年生の彼女。ある日、友人のオーディションにピアノの伴奏として付き添ったところ、その友人より自身のピアノに注目されてしまう。更に、父の遺した特殊な曲を演奏する”代役”として、ヴァイオリニストとしてステージに立ってしまった。するとその非凡な才能に惹かれた芸能プロダクションから声がかかり―

 

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2作の関係性と特徴

 まずは『トライアングル・アゲイン』と『トライアングル・アゲイン2』の2作の関係から書かねばなるまい。単刀直入に言うと、分作で販売された作品です。『トライアングル・アゲイン』が第一章と第二章、『-2』が第三章・四章を描いて物語は完結します。1作めは『-2』に繋げるため、蓼科灯がメジャーデビューを果たすという結末の主旨はそれほど変わらず、2作めで大きく物語が分岐します。

 そんなストーリーは、『やるドラ』シリーズでお馴染みの2Dアニメーションにフルボイス、そして時折現れる選択肢による分岐で構成されています。それもそのはず、『ダブルキャスト』『季節を抱きしめて』などの総監修である東郷光宏氏が原作・監督を務めている作品。また、「ミュージック・アドベンチャー」を謳うだけあって挿入歌のクオリティは高く、蓼科灯のデビューシングルのひとつである『Don't Look Back』は耳に残る一曲

 

いろいろ足りていないシナリオ 

 …なのだが。『やるドラ』の現SIEと本作の株式会社キキとの違いは、恐らくその企業の規模。そこから来ているであろう、主に灯の内面を中心とした心理描写が明らかに不足している。流されるまま生きていて、「努力ってなんだろう」「自分に才能ってあるのかな…」と昨日までずっと思っていた少女が、いきなりミュージックシーンの第一線に立つ。彼女の「心」のことを考えると、それは果たしてできるのだろうか?と疑問符がわく。そもそも灯の才能は、プロの世界のなかどこへ行っても「非凡」「只者じゃない」と評されるのにも関わらず、件のヴァイオリニストとしてステージに立った一件でやっと学内で注目される存在になるのは音大付属の高校としてリアリティが薄い。基本的には灯の視点で物語が展開されるので、彼女がプロの世界に飛び込んで初めてそういう声を受信出来るようになったのであれば…まあ…なのか?

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 1作めのエンディングは、灯のデビュー曲になるものが3曲あり、そのどれでデビューになるかが大きな違い。『-2』ではその後、彼女の成功を妬む人間により灯が窮地に立たされるのだが、1で通ったエンドによっては、どうして灯が憎まれるのかという因果関係がまるで不明なまま物語が展開される。実は「ただ単にぽっと出の新人が売れてクヤシー!」だけじゃない理由があるのだが、最初から分作・四章まで描く想定だったのであれば必須のシーンとして入れておくべきなのでは・・・?

 2も2で。陥れられ、何も信じられなくなった灯の立ち直り速度が早すぎる。「何も信じられない!もうほっといて!!!」という描写は(本作の中では)多めに描かれているのだが、立ち直るシーンがあっさりしすぎていて、灯が何をどう思って、どんな気持ちや心を取り戻してもう一度立ち上がるのかが全くわからない。「それも直前に信じられないと言った対象に関連してないか?」と、プレイしている身からするとよくわからないまま灯ちゃんが元気になりました。やったね。

 

 2作通して初回プレイで2時間かからない程度の長さなので、このあたりの整合性に目をつぶれるのであればぜひ。なんだかんだ『やるドラ』の血を受け継いでいるのでテンポ良くは進みますし、最近のギャルゲーよりは選択肢の数も多いので。また、2Dアニメーションの画面と音楽に隠れがちですが、声優陣も豪華です。 三石琴乃さん、山口勝平さん、田村ゆかりさん、森久保祥太郎さんなど、疎い私でさえ聞いたことのある声が多数。残念ながら主人公の灯役である今井由香さんは存じ上げなかった...。

 

 

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ADV史に残る?音感の無いひとお断りの選択肢

 本作の一番の特徴は、音感の無いひとお断り選択肢なのではないかと思っています。こちらの画像をご覧ください。

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音響監督から「またまた~w冗談でしょ?」と返されるも「本当です!」と答える灯ちゃん。ほ~すごいな~と思って見ていたら。

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歌ってみることになり―

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!?

 そう、この音符マークが出現している選択肢は、「カーソルを合わせるとメロディや歌声が流れてきて、正しい音階になっているものを選ぶ」というもの。ほとんどの場合この選択肢が出現したときに初めて聞くことになる音楽から、音が外れていない正しいものを選ぶという、プレイヤーによっては超難易度になりかねない選択肢を迫るのがこの『トライアングル・アゲイン』シリーズ。カラオケの「原曲キー」と「プラス1」「マイナス1」くらいの違いはあるものの、わからないひとにとってはわからないのではなかろうか...。仕様上、アイキャッチでしかセーブができないのでこの選択肢をすぐに選び直すことは不可能。攻略サイトによると(本作の感想を書いてある記事が2件しかないのに攻略サイトはあるという謎の充実ぶり)正解を選ぶときと不正解を選ぶときがあるようだが、これでフラグ制御されているのだろうか...?

 ADV史に残る?プレイヤースキルを試されるこの選択肢を体験したい方は是非『トライアングル・アゲイン』をプレイだ!

 

まとめ

 2Dアニメーションを用いて描かれ、高いレベルの音楽を取り入れることで「その世界に生きている音楽」を作品を通して届けることには成功しているかな、と感じられる作品。しかし同時に、唐突にスターダムへ押し上げられた主人公の内面の描写が不足しており、プロローグの段階で語られた彼女の考えかたがいつ、どこで、どんな考えに触れてどのように変わっていったのかといった、気持ち・心の機微を捉えることは叶わなかった。内面がわからないので行動原理もわからず、この手の作品では割とエグめの描写もされているのに気持ちが伝わってこないのが非常に惜しい

 本稿ではレベルが高いとした音楽も、本作発売の2002年当時すでに物事がわかる歳で生きていてその頃の音楽を知っているからこそ逆に、今は失われた当時の雰囲気を感じさせる本作のそれに懐かしさを覚え、心に刺さったのかもしれない。最大の特徴である「音を当てる選択肢」とともに、ぜひ本作をプレイして感じ取ってみてほしい。

 1作めであるルートを通っていないと『-2』でなぜ憎まれ妬まれるのかが不明になってしまうのは、2作めの存在意義自体が問われかねない点。憎むだの妬むだのという物騒なワードは『-2』にならないと顕在化してこないので、主人公が華々しくデビューしてスッと終わりたいかたは1作だけでもいいかもしれない。どんな歌手デビューになるかは選択次第なので、その結果を見つめて楽しめるシーンは十分ありますので。

 本作について触れている記事がネットの海に2件しか無いという話だが、私はこの2本のゲームを駿河屋の実店舗にて中古で購入している。中古にあったということは誰かが新品で買っているということ。それは、およそ20年前にプレイした誰かは居たということ。こういう風変わりな作品が、また求められるようになってほしいなと願うばかりである。

 

(C)2002,2003 KiKi Co.,LTD/HAKUHODO Inc./Oricon Inc.

 

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