アドベンチャーゲームの入江

アドベンチャーゲーム(ADV)を600本以上持つ筆者が、商業ゲームプランナーの視点からADVを紹介するブログ。ギャルゲーからミステリまでADVならなんでも。

【PS4/Switch】『AI: ソムニウム ファイル』感想 Infinity & Integral シリーズの総決算ミステリー!

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【殺したのは… AI が欲しかったから…】

東京。廃墟となった遊園地のメリーゴーランドで女性の遺体が発見された。
その遺体からは左目がえぐり取られていた・・・。
現場に向かった主人公、刑事の伊達鍵(だて・かなめ)は被害者と知り合いだった。
何故彼女がこんな姿で殺されているのか?
それは、連続猟奇殺人事件の始まりに過ぎなかった。

Infinity シリーズや極限脱出シリーズでお馴染みの、
打越鋼太郎氏が出がける刑事モノのアドベンチャーゲーム。
本作は、ADVにおいては前衛的な表現を取り入れつつ、和と洋のADVの融合も図っている。

また、氏がこれまで手掛けてきた作品のエッセンスも組み込まれており
Infinity と Integral シリーズのネタが乗ったミステリーとも言えよう。
もちろん過去のシリーズをプレイしたことがなくても充分楽しめるので、そこは問題ない。

スーパーな AI の相棒と共に、事件の全容解明のため夢と現実を股にかける刑事モノ。
早速見ていこう。

 

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よいところ:システム面

進行は、刑事モノや探偵モノの作品ではオーソドックスな「ポイント&クリック式」
調べたい箇所や話したい人物にカーソルを合わせてボタンを押すのだが、
本作ではそれに加えてカメラの移動という要素もあり、上下左右を広く見回す必要がある。
難しそうに聞こえるかもしれないが、それほど意地悪な隠し方はされていないから問題は無い。
調べた際の反応やテキストも多少はバリューがあるので、調べるのはそこまで苦じゃないはず。

本作はアドベンチャーゲームではよくある、2Dの立ち絵を2Dの背景に出して場面を展開させるのではなく、
背景もオブジェクトも人物も全て3Dモデルで登場する。
ここから評価出来る点は、キャラクター達の身長や目線が細かく設定されているところだ。
自分より背の低いキャラと会話しているときは見下ろすような視線になったり、
複数人で話をしているときは話しているキャラのほうを向いたりする。
しっかりとキャラが生きているように動くのである。
このような細かな作り込みは、地味ながらも評価ポイントだろう。

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また、会話中に他のキャラクターが取る反応も必見。
カメラを動かせるのは前述の通りだが、会話をしているときも動かすことができる。
これを利用して、話している人物以外のキャラのリアクションも見られるのだ。
大声を上げられたら驚いたり、残念そうな反応を見せてみたり・・・。本当によく作られています。


キャラ周りのまとめとしては、「リアクションが細かく設定されている」のが good 。


本作のポイントの1つである「ソムニウムパート」はこれまでの進行とは一変し、
3D空間内を自由に歩き回って対象物を調べるなどすることになる。
こちらは海外製のADVでは一般的なもので、『Life Is Strange』や『Detroit: Become Human』タイプのものだ。
ちなみに「ソムニウム」とはラテン語で「夢」という意味だそう。
取調べの中で明らかな偽証をしていたり、口を割らなかったりする人物に対し、
彼らの記憶から構成される「夢」に潜り込み情報や真実への手がかりを得ていくのが「ソムニウムパート」。

この「ソムニウムパート」では制限時間が6分に設定されており、
なおかつ対象物への行動~調べる、押す、壊す、などなど~を行うのにも時間を使ってしまう。
但し、何かに対しての行動を取った後に、行動時に消費時間を減らすアイテムがゲット出来ることがある。
これを上手く使うのが「ソムニウムパート」の鍵となる。
単純に歩き回って総当りというのが出来ず、結果を予測しながら行動しなければならない点が緊迫感を演出している。
物語の分岐は全て「ソムニウムパート」内で発生するので、(制限時間はあるが)じっくり考えよう。
一応、立ち止まっている間は時間の減りが遅くなるぞ!

捜査パートとは打って変わってリアルタイム性が要求され、ゲームプレイを豊かにしています。
洋の「ソムニウムパート」、和の「捜査パート」。この2つをまとめて楽しめてしまうのが本作の特徴でもありますね。


これまでの物語を振り返る場合は、フローチャート機能が役に立つ。
どこで分岐するのかが確認出来たり、任意のエピソードに飛べたりするだけではなく、
そのエピソードのあらすじも読むことが出来る。
加えて、データをロードした際に、直近のダイジェストが5枚ほどの画像で表示される。
こういう推理モノは繋がりを忘れてしまうと続きにとっかかりにくくなってしまいがちなので、
こうして過去を参照する機能が充実しているのは良いこと。

 

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よいところ:シナリオ面

殺人事件の全容がなかなか見えないばかりか、突然の危機に襲われるなどのハプニングで状況が二転三転。
次の展開が非常に気になり、いい意味でやめどきを見失ってしまう内容。
ある1つの結末にたどり着いても、そこでまた新たな謎が生まれてしまうなんてことも。

休息や安息といったハメを外すパートは存在せず、あっても束の間の出来事。
その些細な幸福が、後から考えるとかけがえのない時間だったんだなと感じさせられます。

わたしが注目したのは、シナリオに使われているネタが
ライターの打越鋼太郎氏が過去に手掛けた Infinity / Integral シリーズから深化させているのでは?という点。

まず、脳の働きや器官に関する話題は「Ψ」という超能力を描いた『12RIVEN -the Ψcriminal of integral-』から。
ソムニウム・・・夢に関連して作中で登場するテクノロジーは、脳の作用に基づいている。
他にも脳の機能の話が出てくることもある。
また、<ネタバレ>に関しては『Remember11 -the age of infinity-』で扱ったことがある。
これは当該作品の重要な仕掛けにして、解決されなかった「あの事」への答えも『AI: ソムニウム ファイル』ではしっかり描いている。
そして<こちらもネタバレ>は『Ever17 -the out of infinity-』において登場した要素の1つだ。
このように(と言ってもここでは1つしか書いていないのだが)、昔どこかで経験してきたネタが
手法を変えてミステリーに登場してきていることから、「Infinity & Integral シリーズの総決算ミステリー」か?と感じた。

無論、本作はこれらの過去作と全く独立しているので、知らないと楽しめないということはない。

全体的な進行はとてもスムーズです。
ダラダラ間延びするでもなく、かと言って一時も気を抜けない極限状況でもなく。

山と谷、静と動がよく出来ていると思いました。

 


 

よいところ:その他

プレイ中何度も見ることとなる、恐らく次のデータをロードしているであろうこの場面。

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主人公の運転する車が走ってゆくワンシーンなのですが、
よく見ると対向車の色が3パターンくらいあります。(銀・黄色・赤)
物凄く地味ですが、退屈させない・飽きさせないようにする工夫が見て取れます。


あと、物語の中で以前見た光景や聞いた話が参照される時、その場面をプレイバック再生してくれるため、
この点でも過去の出来事を思い出すことが容易となっています。
(画像の AI Sight という枠内です。)

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わるいところ:システム面

人物のプロフィールや設定画、TIPS がせっかく用意されているのに、タイトル画面からアクセス出来ない。
これらの要素を見るためには必ずどれかデータをロードし、本編のプレイを始めなければならないのだ。

そういったものの閲覧は他の作品ならば「ギャラリー」や「おまけ」として項目があるのだが・・・。
加えて、前述のフローチャートも、ロードしてからじゃないと見ることが出来ない。
この仕様はかなり不便。

プレイ中に過去のシーンを参照する AI Sight の枠だが、これを表示するまでのロードが長すぎる場合がある。
場合によっては数秒待たされてから出現する。

全体の進行はスムーズで良いのに、会話中のこの待ち時間は心象が悪い。

 


 

わるいところ:シナリオ面

・全体的に都合の良すぎる進行がある。
「ソムニウムパート」に入るため、シナリオ中で夢を見てもらう対象には眠ってもらうのだが、
取調べ中割と強行な態度だった相手でも次の瞬間には眠っている。
しかもこの催眠は同意書を書く必要があると作中で述べられるが、よく同意したなと感じる。

キャラの行動としてピンポイントでおかしいと思ったのは、
殴られて倒れている人物を無視して別のキャラに話しかけるという場面。
いくらなんでもそれは無理がある。

相棒のスーパー AI が優秀すぎる。
主人公の左目(比喩ではない)として活躍する相棒。
音声通話・動画再生・録画は当たり前。ズームやX線透視まで行える。
ここまではいいのだが、サーモグラフで相手の体温を確認し、嘘をついているかを瞬時に判断することも可能なのだ。
その情報だけで、裏を取ったり議論から穴を見つけたりせず偽証と判断して切り返すのは都合が良すぎる。

主人公30歳、24歳の策略にあっさりハマる。何度も。
あっさり過ぎて「なんでそうなるんだよ」と、もどかしくなる。
一応仲間みたいな存在なので疑いをかけすらしない、というのはわかるが・・・。

主人公はエロが絡むと身体能力が3.6倍になるらしい。アホか。
シナリオ中登場する敵をエロ1つをきっかけに一網打尽にする場面も。全員揃ってそれでいいのか。


・分岐先で事件の内容が変わってわかりにくい
本作の連続殺人の展開は、かなり序盤の段階で大きく2つに分かれる。
一方ではある人物の遺体がすぐに見つかるが、もう片方では長いこと探し続けることになるなど。
主役キャラによって過程や結末が変わるだけなら納得出来るのだが、
問題は、片方のルートだけでは途中でシナリオにロックがかかって進行不能となり、もう片方をやらないといけなくなること。
こうして行き来していると、事件がどんな内容だったのか非常に混乱する。
ただでさえ刑事モノということで1つあたりの情報量が多いのに、こうなると処理しきれない。


・過去作ネタ
『Ever17』でも出てきた要素なのだが、これが中途半端。
同作のネタバレになってしまうので詳細は伏せるが、この要素は本作の後半あたりから突然出現する。
原理に関しては元の作品と同じだと思うのだが、その場合辻褄が合わなくなる場面がある。

 


 

その他

氏の往年のファンはにっこりな「ティーフブラウ」。

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総括

オーソドックスな「ポイント&クリック式」のシステムを発展させ、主観視点で見回した上でクリックするというのは
昨年12月発売の『ダイダロス』にも見られた意欲的な挑戦。
かの作品の背景は絵だったが、本作は全て 3D となっているのでリアリティが増している。
その 3D で造形されたキャラクター達はよく動き、よく作り込まれており、
単なる記号ではなく生命が与えられた存在のように見える。

そして「ソムニウムパート」では、制限時間内にアクションによる結果を予測しながら動く。
このアクションにも消費時間が、加えて消費量を減らすアイテムがあることが、
単なる総当りを防ぎ、戦略性と緊張感を持たせるスパイスのようなパートとなっている。
連続猟奇殺人を追う刑事を描くシナリオは、しっかりとしたメリハリがありつつもスムーズな進行を見せ、プレイは苦にならない。

だがその進行では、都合の良すぎるシーンがちらほら見られてしまう。
偽証の瞬間的な判断や、とりあえずソムニウムに連れて行く展開は、
もう少しプレイヤー(主人公しかり、操作している我々しかり)に推理や行動、選択の余地を与えてもよかったのではないだろうか。
終盤に出てきたとある要素も整合性が取れておらず、疑問が残る。
また、事件を行ったり来たりする構成は些か混乱を呼ぶ。


非常に丁寧に作られているが、丁寧であるが故に荒が気になりやすい作品。
今年発売の推理モノでは『シンソウノイズ』という傑作があったが、
残念ながら本作はそれには及ばず、良作レベル。
CERO:Z は血や殺人描写といったグロ表現が理由なので、そこに抵抗が無いかたは
プレイしても損はないのでは・・・という一作。

余談だが、本作のキャラクター達は本当によく動きます。
E-mote と呼ばれる 2D の絵を動かす技術が ADV には既に存在していますが(『Song of Memories』『まいてつ』『ネコぱら』)、
スパチュンクラスの会社なら 3D モデリングで ADV を制作出来るんですね。
恐らくコスト面やエンジンの関係から主流にはならない可能性が高いとは思いますが、
キャラクター達の作り込みは是非他社さんも見習ってほしいところ。

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